宝石時計ブランドショップの憂鬱

| コメント(7) | トラックバック(0)

先日ある宝石時計小売店の幹部から以下のようなメールがあった。個別に対応できないのと、会社共通の問題なので、ここに回答を掲載する。

質問内容
先生、おはようございます。一昨日に幹部会議があり、在庫削減について各店責任者から案が出てましたが、根本には「ブランドウォッチ・ジュエリー」の導入で在庫数・在庫高が増えた割りには売上高が伴っていないからだと思います。これでは財務状態は悪化するのではないでしょうか?先生が指導に入られた時、ブランドジュエリーをなくされる様指導されていたと思いますが、一向に減少していません。もっと強く「歯止め」をする必要があるのではないでしょうか?僕が申し上げるのも筋が違うかもしれませんが、この先の会社が不安になっております。

回答
これは財務問題なので昔となんら意見は変わっていない。宝飾時計市場は、最盛期の1兆5000億円市場から、2009年統計で、1兆円を割り込み9000億円市場になっている。この数字を国民1億2000万人で割り、一人当たりの支出額を計算し、各店舗の商圏人口を掛け算で計算すれば一目瞭然であろう。
以下、過去に日経ジュエリーに掲載され、デ・ビアスの小売店教育資料に使用した記事を再投稿する。

品揃え一番店の憂鬱

宝飾業界が高度成長期にあった1990年頃までは、地域一番店とは同一商圏内で最も品揃えが豊富な店舗を指していました。

これは、在庫高の増加は必ず集客力の向上、すなわち売上高の増加に結びつくという考え方に基づいたものでした。

確かに、需要が年々増加している業種にはこの考え方は通用していました。しかし、その後の宝飾業界のように成長率が鈍化し、安定成長期に入った業種の場合には必ずしも在庫投資に比例して売上高が上がるとはいえません。

地域一番店を志向し、競合店の品揃えを凌ぐ在庫量を確保することばかり重視し過ぎると、立地の制約条件や周辺施設の吸引力、自社の財務力などを無視した在庫量を抱えることになり、財務破綻をもたらす危険性も出てきます。

【在庫高と売上高は比例しない】

あるショッピングセンター(SC)内にテナントとして出店している年商3億円、在庫高が原価で1億円の宝飾店があると仮定し、在庫高を増やすことによって売上高がどう変化するのかをシミュレーションしますと、宝飾品のように買い回り性が高く、耐久性のある商品を取り扱う小売業の統計から作成された在庫投資と売上高の関係の経験曲線から割り出してみます。

SCを閉鎖商圏と見た場合、テナントとして出店している宝飾店舗が何店出店していようと、そこには商業施設の総売上高の限界から来る宝飾品売上高の限界があります。

そのテナントの一店が一番店を志向して在庫投資を順次増加させていく場合、もちろん競合状況などによって条件は異なってきますが、概ね以下のような数字を示します。

A 5000万円程度の追加在庫投資では売上高に影響せず、在庫が現在の1.8倍の1億8000万円になった時に初めて売上高が増加し始める。これは、在庫投資の追加は顧客が一目で「以前より品揃えが豊富になった」と認められる量が必要であり、その量以下では在庫投資の効果が出ないため。

B 売上高は在庫投資に比例して増えるわけではない。例えば在庫が1.8倍の1億8000万円になった時、追加在庫が単価の低い商品を中心としたMD(商品戦略)で、さらにセールスプロモーションが完全に行われた場合でも売上高は4億2800万円にとどまる。

C 在庫高に対する売上高の比率は在庫を増やすにつれて減少する。当初は1億円の在庫で売上高3億円だったため在庫投資に対する売上高の比率(商品投下資本回転率)は3回転となるが、在庫高を2億円まで倍増させても売上高は4億5000万円にとどまり、商品投下資本回転率は2.25回転に鈍化して来る。

【在庫高重視主義は危険】

このシミュレーションではSC内のテナントを例に挙げましたが、商店街にある路面店でも商圏内の宝飾品売上高に限界があることに変わりはなく、やはり同様のことがいえます。

つまり、在庫量の増加だけで顧客の満足度を向上させ、売上を伸ばしていくことは非常に難しいといえます。

ですから、もし膨大な在庫量を持った地域一番店が在庫量に見合った売上高を達成することを目指すならば、大幅なディスカウントによって集客力を上げなければならなくなるわけです。
その場合、他の競合店との価格競争に突入することになり粗利益率の低下を招きます。在庫投資の金利などの資本コストも計算に入れると経常利益を圧迫することになるのは免れないでしょう。

【交差比率は小売業経営の原点】

このように見てくると、在庫高重視主義は低コスト経営が企業経営の安定に欠かせない今日においては非常に危険な経営のあり方といえます。

しかし、このことはただ単に在庫高を減少させよといっているのではありません。在庫投資に対しどれくらいの収益を得ることができるのか、その尺度を常に念頭に置く必要があるということです。

この在庫投資に対する収益性の尺度が交差比率で、小売業のマーチャンダイジングの原点となるものです。交差比率とは、正確には商品投下資本粗利益率といい、次式のように示されます。

  商品投下資本粗利益率=粗利益率×商品投下資本回転率


  粗利益率:粗利益÷純売上高
  商品投下資本回転率;純売上高÷商品投下資本


前述のケースで粗利益率を40%として交差比率を計算すると次のようになります。


 《在庫高1億円、年商3億円の場合》

  商品投下資本回転率=3億円÷1億円=3回

  商品投下資本粗利益率=0.4×3.0=1.2
(120%)

  


 《在庫高2億円、年商4億5000万円の場合》

  商品投下資本回転率=4億5000万円÷2億円=2.25回

商品投下資本粗利益率=0.4×2.25=0.9
(90%)


交差比率とは、商品投下資本(在庫投資)が1年間で何パーセントの利回りで利益(粗利益)を生み出すかを計るものですから、この場合在庫高が1億円の時は120%、在庫高を2億円にした場合には元金割れの90%にしかならないことが分かります。

単純にいえば、商売をせずに2億円を預金したほうがはるかに利回りが良かったということになります。

【適正な回転率と粗利益率の設定を】

交差比率を一定にした時、それを達成するためには「商品投下資本回転率主義」「粗利益率主義」「バランス主義」の3通りの戦略があります。

「商品投下資本回転率主義」は粗利益率を犠牲にし、もっぱら商品投下資本回転率を高める戦略で、いわゆる薄利多売商法といえます。この典型的なものとしてはディスカウントショップが挙げられます。

現実に粗利益率が20%で、商品投下資本回転率が7回転という宝飾店も存在します。

しかし、商品投下資本回転率が異常に高いことは一方で売上高に見合った在庫がないことを物語っています。他商圏からの競合店の参入阻止能力を持っていないばかりか、現在の売上高の死守が精一杯で"攻める"姿勢が欠如しているといえます。

一方、商品投下資本回転率が低いため、粗利益率を高くする戦略を粗利益率主義といいます。宝飾品は、他店と品質を比較しにくい特性があるため店舗のイメージが高いとか、中には「宝石だから」という理由だけで高粗利益を設定している店舗があります。

しかし、宝飾業界特有の粗利益率の設定方法は顧客が宝飾品に資産価値を認めていた頃のもの。
現在のように資産価値より使用価値に重点を置くようになり、また購買頻度も高くなると顧客は価格を見破る力を持つようになります。買い回りできる範囲内で、顧客が同一品質と認める商品が非常に安い価格で売られていれば当然顧客は価格の低い方へ流れます。

商品投下資本回転率と粗利益率は、買い回り商品や宝飾小売業の平均で設定するのが望ましいといえます。マーチャンダイジングには本来「適正」の概念があります。何が適正かは顧客が判断することです。

小売業経営の出発点は前述しましたように交差比率の適正な設定です。商品投下資本回転率は資金繰りに直結しますし、粗利益率は経費率や営業利益率と関係してきます。宝飾小売業の場合はまず目標交差比率として160%を目安に設定すべきです。

次に、商品投下資本回転率や粗利益率を、宝飾品のように買い回り性が高く耐久性のある商品を取り扱う小売業(ただしアパレルを除く)の平均値である4回転と40%に設定すべきでしょう。

交差比率160%以下の店舗は徹底した経費の見直しが必要なことはいうまでもありませんが、160%以上の店舗、特に200%を超えている店舗は十分に経営余力のある店舗といえますから、更なる発展を目指すためにもぜひ新しい支店の出店を計画してください。

効率経営は素晴らしいことですが、行き過ぎると実は非効率経営になっていることに注意してください。

ーーーーーーーーー
シュミレーション図式などがブログに投稿するは面倒くさいので、一部修正しています。

追記
その後、業界は大きく変化したが、今日でも、まだ「売れない」ブランドジュエリーやブランド時計を大量に在庫している店があるので困ったもである。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.marketing-r.net/mt/mt-tb.cgi/173

コメント(7)

この原稿が日経ジュエリーに掲載されて依頼、許可なき転載が続きましたね。今でも他のコンサルタントがあたかも自分の意見のように、そっくりそのまま使っています。
原著作権者の先生を知っている者としては笑止千万です。
しかし先生は放置したままです。

先生、財務論を書かれたら、女の子がコメントできなくなりますよ。
もう一回財務の勉強やり直しです。

商圏人口が少ないとブランドウォッチ・ジュエリーの販売には限界があります。先生が指摘されているように一通り売ると止まってしまいます。

ファッションアパレルでもビッグブランドは大商圏でしか経営がなり立たなくなっています。一般には高くて2万円以下で買えるカジュアルブランドです。

国内でも高額品を買い続ける人は少数であって、当然、東京のような大商圏に多いのです。
2万円以下の商品を買う人は全国どこでもいますね。商売は利がなければ続きません。

ファッションではなく衣料品のくくりでは、1万円でも高いのです。実際の売れ筋価格帯は3000円なんです。

一般的なブティックは商品回転率年6回が最低基準です。そうでないと来年の秋に、今年の商品を新製品として売らないとなりません。

コメントする

最近のブログ記事

「報告」本日22時過ぎよりブログのポータルサイト化をします
Movable Typeの特徴の一つに大…
ジェラートピケ
多くのファッション雑誌に掲載されて注目さ…
Dittos(ディトス)
昔一世を風靡して一度姿を消して、2007…